「あずきバー」井村屋に商標
2013.01.25 14:53
知財高裁判決 特許庁の審決取り消し
菓子会社「井村屋グループ」(津市)が主力商品のアイス「あずきバー」=写真、同グループ提供=の商標登録を認めなかった特許庁の審決の取り消しを求めた訴訟で、知財高裁(土肥章大裁判長)は24日、「高い知名度を獲得しており、商標登録できる」として審決取り消しを命じる判決を言い渡した。
井村屋側は2010年に商標登録出願したが、特許庁から「他社のアイスでも「あずきバー」の名称が使われており、識別できない」などとして退けられた。判決は、井村屋の「あずきバー」販売が1972年に始まり、2010年度には2億5800万本を売り上げ、全国の小売店で販売されていることなどから、「井村屋の商品を指すものとして一般的に認識されており、商標登録の要件を満たしている」と結論づけた。
読売新聞 2013年1月25日 朝刊商標法では、商標の本来的機能である自他商品識別力のない商標を規定しており、そういった商標の登録を認めていない。
具体的には、
1.商品やサービスの普通名称(略称や俗称も含む)
2.慣用商標(商品やサービスについて慣用的に使用されている商標)
3.記述商標(商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途やサービスの提供場所、質等を表示する商標)
4.ありふれた氏または名称
5.極めて簡単で、かつ、ありふれた商標
に分類されており、さらに、1~5に該当する場合であっても、商標の使用によって自他商品識別力が発生するに至った場合は、登録を受けることができるとしている。今回の事件では、「記述商標」に該当するとして、特許庁において登録が認められなかった「あずきバー」という商標に対して、販売年数、販売本数及び販売地域等を考慮すると、商標の使用により識別力が発生するに至ったものと知財高裁判決が認定したということになる。
弁理士 西村陽一
中国商標局1月1日より「薬剤関係の小売役務」の受付を開始
2013.01.24 10:43
これまで、中国では、商標登録出願において小売役務を指定することはできませんでしたが、昨年12月14日付で、中国商標局のホームページにおいて、「本年1月1日よ『薬剤関係の小売役務』の受付を開始する。」との発表がありました。
ただし、対象となる小売役務は、「薬用、獣薬用、衛生用製剤と医療用品」です。
また、日本とは異なり、小売役務とその該当商品とは原則として類似しないという取り扱いになります。従いまして、これまで、商品分野で取得していた権利では小売の出願を排除できないことになりますので、ご注意ください。
また、2013年1月1日~1月31日の期間中に、同一または類似する新規役務について提出さる登録出願は、同日に出願されたとみなす、という「出願の特例」が設けられています。従いまして、1月31日までに出願を行えば、製薬会社の商品商標が、第三者による薬剤等の小売商標で先取りされるような事態は防止できます。なお、これらの小売又は卸売の役務について商標登録を受けるためには、出願人が指定した小売又役務が、当局の営業許可書における営業範囲と一致している必要がありますが、日本法人の場合は、会社登記簿において、「薬品・薬物などの小売又は卸売り、販売」等が経営目的に含まれていれば、小売卸売役務の出願が可能とのことです。
以下に、JETRO北京事務所にて作成された日本語仮訳を掲載します。
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新規小売または卸売役務の商標登録出願関連事項に関する通達2012年12月14日 出所:国家工商行政管理総局商標局
2013年1月1日より実施される『商標登録用商品・役務国際分類』第十版2013修正版は第35類に「薬用、獣医用、衛生用製剤および医療用品の小売または卸売役務」という項目を追加した。すでに使用された商標権者の利益を一層守り、安定的市場秩序を維持するために、当局は検討の上、新規役務項目を受理する過渡期を設けた。新規役務項目および過渡期に関する事項について以下のとおり知らせる。
一、新規役務及びその定義
(一)『商標登録用商品・役務国際分類』修正版に基づき、『類似商品・役務区分表』類似群3509において「薬用、獣医用、衛生用製剤および医療用品の小売または卸売役務」、「薬品の小売または卸売役務」、「薬用製剤の小売または卸売役務」、「衛生製剤の小売または卸売役務」、「医療用品の小売または卸売役務」、「動物用薬剤の小売または卸売役務」および「獣医用製剤の小売または卸売役務」の計7つの新規役務項目を設けた。
(二)新設役務は小売または卸売役務であり、顧客が見て購入できるように、薬品、薬用製剤、衛生製剤、医療用品、動物用薬剤、獣医用製剤等の商品を集約し、分類すること(輸送を除く)を指す。当該役務は、顧客が購入するよう促すために提供する役務の集合であり、伝統的な実店舗、若しくはインターネット上の販売プラットフォームを通じて提供することができる。新設役務商標登録の保護しようとする対象は上記の具体的な商品ではなく、当該商品を販売するために提供する総合的な、便利な役務行為である。
二、新規役務商標の出願
(一)出願人は、7つの新規役務項目の標準的名称で登録出願しなければならない。
(二)出願人の指定項目は新規役務の範疇を超えてはならない。
(三)下記の表現は新規役務項目の標準的名称でないため、当局は受理しない。
1、小売または卸売役務。
2、薬品の小売または卸売。
3、薬品名称の小売または卸売役務。
4、某ブランド薬品の小売または卸売役務。
5、薬品の小売または卸売情報を提供する。
6、薬品の小売において顧客に無料のコンサルタント役務を提供する。
7、医療機構により調合される製剤の小売または卸売役務。
8、その他の新規役務項目の標準的名称でない場合。三、新規役務の類似関係
(一)新規役務同士の類似関係
1、「薬用、獣医用、衛生用製剤および医療用品の小売または卸売役務」と「薬品の小売または卸売役務」、「薬用製剤の小売または卸売役務」、「衛生製剤の小売または卸売役務」、「医療用品の小売または卸売役務」、「動物用薬剤の小売または卸売役務」、「獣医用製剤の小売または卸売役務」とは原則として類似する。
2、「薬品の小売または卸売役務」、「薬用製剤の小売または卸売役務」、「衛生製剤の小売または卸売役務」、「医療用品の小売または卸売役務」の四項目の役務同士は原則として類似する。
3、「薬品の小売または卸売役務」、「薬用製剤の小売または卸売役務」、「衛生製剤の小売または卸売役務」、「医療用品の小売または卸売役務」と「動物用薬剤の小売または卸売役務」、「獣医用製剤の小売または卸売役務」とは原則として類似しない。
4、「動物用薬剤の小売または卸売役務」と「獣医用製剤の小売または卸売役務」とは原則として類似する。
(二)新規役務とその他の商品または役務との類似関係
1、新規役務とその販売する商品とは原則として類似しない。
2、新規役務と「他人のために販促する」など第35類のその他の役務とは原則として類似しない。四、過渡期の規定
当局は、1993年の役務商標の受理経験を参考に、2013年1月1日より1月31日までの期間を登録出願の過渡期として定めた。この期間中、同一または類似する新規役務について提出される登録出願は、同日に出願されたとみなす。出願日は当局が出願書を受領した日とする。過渡期内に登録出願した新規役務商標について以下の措置を講ずる。
(一)インターネットによる出願は受理しない。
(二)出願人が指定する新規役務項目の範囲は営業許可証における経営許可範囲と一致しなければならない。
(三)通常は、以下の原則により商標専用権を決める。同日出願したものについて、先使用者の商標を初歩審定する。同日使用、或いはいずれも未使用の場合、当事者の協議により解決する。決まった期間内に協議したくない又は協議が成立しない場合、抽選で決める。
新規役務商標が既に使用されたとは、2013年1月1日までに既に指定した新規役務項目において公式に、実際に使用されたことを指す。上記の規定は、過渡期内に当局で行われる新規役務商標の登録出願のみに適用する。
商標局
2012年12月14日
出所:
2012年12月14日付け国家工商行政管理総局商標局ホームページを基に、JETRO北京事務所にて日本語仮訳を作成。http://sbj.saic.gov.cn/tz/201212/t20121214_131924.html
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リスティング広告において、他社による自社の社名・商品名等の使用を阻止するには!
2013.01.23 10:00
近年、ネット通販会社等のリスティング広告の広告文のタイトルや文中に、競合企業に対する優位性を主張するために、例えば、「弊社の×××は、○○社の□□□と同等の品質で低価格」のように、競合企業の商品名や企業名を使用したうたい文句が頻繁に採用されています。
しかしながら、Googleでは、他社の社名や商品名が商標登録されている場合は、自社の広告文のタイトルや文中に、商標登録されている他社の社名や商品名を使用することができないようになっているようです(Googleに電話で確認済み)。なお、Yahoo!にも同様の規定があるようですが、電話確認はしておりません。
従って、リスティング広告を行うことが一般的である業界の企業様は、自社の社名や商品名等については、他社の広告文の中で悪用されないように、予め、商標登録をしておくことをお勧めいたします。
なお、商標登録された場合は、Yahoo!やGoogleに事前にその旨を申請しておく必要があります。
弁理士 西村陽一
電子本「自炊」は著作権侵害か?
2013.01.16 10:00
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—————————————————————————————————————————人気作家や漫画家ら7氏が27日、紙の本をスキャナーで読み取り、自前の電子書籍を作る「自炊」の代行業者7社を相手取り、著作権侵害の差し止めを求める訴訟を東京地裁に起こした。
提訴したのは浅田次郎、大沢在昌、永井豪、林真理子、東野圭吾、弘兼憲史、武論尊の各氏。訴えられたのは東京都と神奈川県の7社と、それぞれの代表者。
原告側によると、作家7氏は昨年9月、自作のスキャン行為を認めないとの文書を被告らに送ったが、7社は現在も不特定多数から注文を受けて事業を継続。著作権法で認められた「私的複製」には該当せず、著作権侵害だとしている。
読売新聞 2012年11月28日 朝刊著作権法第30条では、「私的使用」を目的とする場合は、一定の条件下で著作物の複製を認めている。
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(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という
。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用するこ
と(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その
使用する者が複製することができる。
一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有
し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用い
て複製する場合
二 省略
三 省略
2 省略
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――本件で問題となるのは、業者が使用するスキャナーが、法が規定する「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」に該当するか否かであろう。
また、紙媒体に表示されたコンテンツを電子情報にすることが法上の「複製」に該当するのかという点も疑義が生ずるところである。
これらの点について、裁判所がどのように判断するのかが注目される。
さらに、「自炊」が、適法であるとしても、業者及び業者への委託者が、法上の「私的使用」以外の目的に使用する可能性は否定できないので、そういった行為を未然に防止するための手当を行う必要はあるであろう。
自分の本を他人に貸すことはよくあるが、紙の本の場合、借りた本は返さなければならない。しかしながら。電子書籍の場合は、他人から提供されたコピーは返却する必要がなく、両者の手元に同一の電子書籍が残ることになり、「本を借りる」という概念が存在しないことになる。
書籍を購入すると、読んだ後の保管場所に困るので、「自炊」で作った電子書籍というのは非常に便利で使い勝手がよい。私自身も「自炊」で電子書籍を作りたいとも思うが、そのために書籍を切断して廃棄することにも抵抗があり、なかなか踏み切れないのが正直なところである。
弁理士 西村陽一
第3回 小売役務商標について
2012.12.12 09:00
小売役務商標とは、小売業者等がその業務に係る小売・卸売に使用する商標のことをいいます。
小売業者及び卸売業者(以下、「小売業者等」といいます。)は、店舗設計や品揃え、商品展示、接客サービス、カタログを通じた商品の選択の工夫等といった、顧客に対するサービス活動を行っていますが、これらのサービス活動は、商品を販売するための付随的なサービスであること、また、対価の支払いが、販売する商品の価格に転嫁して間接的に支払われ、当該サービスに対して直接的な対価の支払いが行われていないことから、従来の商標法では、「役務」には該当しないとされていました。
そのため、従来の商標法では、小売業者等がサービス活動に使用する商標は、「役務」に係る商標としては保護されていませんでした。
ただし、小売業者等が商品について使用をする商標は、「業として商品を(中略)譲渡する者がその商品について使用をするもの」(商標法第2条第1 項第1号)にも該当しますから、小売業者等が取扱商品に商標を貼付したり、チラシに販売商品と共に商標を表示したりする場合は、その商標について自らが販売する商品の商標権を取得して、商品に係る商標としての保護を受けることは可能でした。
しかしながら、例えば、店内のショッピングカートに社標が表示してあったり、接客サービスをする店員の制帽・制服・名札に社標を付し、その制服等を着用してサービスを提供することは、商品との具体的な関連性を見いだせないことから、商品に係る商標としての商標権では保護されておらず、改正前の商標法の下では、小売業等の商標の保護には限界がありました。
また、多くの種類の商品を取り扱う小売業者等が商標登録する場合、小売業者等はその多くの取扱商品を指定して商標登録しなければなりませんが、そのためには、多数の区分に分類された商品を指定して出願しなければならず、区分の数に応じて課されている出願手数料や登録料、その後の維持費用等が大きな負担となっていました。
そこで、商標法が一部改正され、平成19年4月1日から、小売業、卸売業の方々が使用するマークを小売役務商標として保護する制度がスタートしました。
具体的には、以下に掲げるような標章について、小売役務商標として保護を受けることができます。
1. 店舗内の販売場所の案内板(各階の売り場の案内板)に付する標章
2. 店内で提供されるショッピングカート・買い物かごに付する標章
3. 陳列棚に付する標章
4. ショーケースに付する標章
5. 接客する店員の制服・制帽・名札に付する標章
6. 試着室に付する標章
7. その取扱商品や包装紙、買い物袋に付する標章
8.顧客が、手にとって実際に商品の確認を行うために店頭に展示された商品見本に付
する標章
9.会計用カウンターに設置される、商品の会計用のレジスターに付する標章
10.商品の販売のために商品の品揃え、商品説明などを行うインターネットサイト上に
表示する標章
11.小売店の店舗屋上に設置した看板に付する標章
12. 電車内の吊り広告に付する標章
13. 新聞広告に付する標章
14. 新聞の折り込みチラシに付する標章
15. 店舗内で展示、頒布する商品カタログ・価格表に付する標章
16. インターネットサイト上で取扱商品の広告を表示する際に表示する標章また、小売等役務は、その取扱商品が多種類の商品分野に及ぶ場合でも、ニース協定の国際分類によれば、第35類という一つの区分に属する役務であることから、小売業者等が自己の商標を小売等役務に係る商標として商標登録する場合には、改正前のように多数の区分に出願する必要がなく、第35類という一つの区分に出願すればよいので、取扱商品の範囲に応じて区分の数が多くなって出願手数料や登録料等の負担が大きくなるということはありません。
第2回 商標のはたらきについて
2012.12.05 09:00
商標は、自社の商品・サービスと他社の商品・サービスとを識別するはたらきを有しています。
例えば、私たちが商品を購入する場合、今まで使っていたブランドやCMでなじみのある商品を購入する傾向にあります。実際に店頭では、商品に表示されている商品名やロゴマークで自分の買いたい商品を探します。これは、同じ商標がついている商品やサービスは、同じ生産者や提供者が提供していることを示す、自他商品・役務の識別標識としての機能を商標が有しているからです。
また、同じ商標がついている商品やサービスは、同じ品質や質を有していると思ってどこでも安心して購入することができます。従って、商標は、商品やサービスの質を保証するはたらきも有しています。
そして、営業者が同じ商標を使用してよい商品やサービスを提供し続けることで、私たちは商標自体によいイメージを持つようになり、私たち需要者の信用が商標に蓄積されていきます。このようにして需要者の信用が蓄積された商標は、ブランドと呼ばれるようになり、営業者にとっての広告塔となります。
第1回 商標について
2012.11.28 09:00
商標法では、
「『商標』とは、文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という。)であつて、
・業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
・業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの
をいう。」
と規定しています。
ここで、「役務」とは、有体物である商品を持たない飲食業、ホテル業、輸送業等といったサービス業が提供する「サービス」を意味しています。簡単に言いますと、商標は、商品や役務(サービス)に使用する名称、マーク等であり、商品に使用する商標を商品商標(トレードマーク)、役務(サービス)に使用する商標を役務商標(サービスマーク)といいます。
具体的には、以下のように分類されます。
・会社名、商品名、サービス名等のように文字だけからなる文字商標・ロゴマークのように図形だけからなる図形商標
・記号だけからなる記号商標
・文字と図形や記号とが結合した結合商標、
・キャラクター人形等のような立体商標
また、特許庁に登録されている商標を「登録商標」といい、独占的使用が認められています。
2012年11月24日号 「新日鉄住金の技術情報漏洩事件」
2012.11.14 15:48
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多額の報酬で社員OBを抱き込まれ、鋼板製品に関する最先端技術を盗用されたとして、新日鉄住金(東京)が韓国の鉄鋼最大手ポスコを相手取り、不正競争防止法に基づき986億円の損害賠償や同製品の製造・販売の差し止めなどを求めた訴訟の第1回口頭弁論が25日、東京地裁(高野輝久裁判長)であった。ポスコ側は「盗用の事実はない」と請求棄却を求め、全面的に争う姿勢を示した。
盗用の疑いがあるのは、発電所の変圧器などに使われる「方向性電磁鋼板」の製造技術。新日鉄住金が40年以上かけて改良を重ね、「営業秘密」として管理してきた技術だが、2007~08年、中国の製鉄会社への秘密漏えい事件で韓国検察に逮捕・起訴されたポスコの元研究員(有罪確定)が、「漏えいしたのは新日鉄の技術」と供述したことで盗用の疑いが発覚した。
新日鉄住金は訴状で、ポスコが1987年以降、同社の日本法人を介するなどして、新日鉄の元社員4人に多額の報酬を約束したり、元社員が設立した会社と技術供与契約を結んだりして技術情報を盗用していたと主張。「ポスコの組織的・計画的な不正行為により、市場での優位性が著しく損なわれた」としている。
これに対しポスコ側は答弁書で「盗用は事実無根」と反論。新日鉄住金からの盗用を認めた元研究員の供述についても、「信用に値しない」と主張している。
読売新聞 2012年10月25日 夕刊
ノウハウとして秘匿されている有名な例としては、コカコーラの原液の配合方法等が挙げられる。このように、企業が自社技術をノウハウとして管理するのは、権利行使が難しい製造方法等の技術については、特許を取得するためにその技術内容を社会に公開するよりもノウハウとして秘匿するほうが、リスクが少ないと企業が考えているからであろう。
確かに、企業が自社技術の社外漏洩を100%防止することができるのであれば、特許を取得することなく、営業秘密として管理するのがベストな選択であると言える。
しかしながら、上述した新日鉄住金の事例からも分かるように、技術の社外漏洩を100%防止することは困難であると共に、コンプライアンスが厳しく問われるようになった昨今では、企業が他人の権利を黙認して権利侵害行為を行うと、社会から厳しい制裁を受けることになるという現実を考慮すると、自社技術というものはいずれ漏洩してしまうものと考え、積極的に特許を取得することを検討すべきであろう。
ただし、製造方法等の技術の場合は、他社の侵害行為を立証しやすいように、特許請求の範囲の記載を工夫しておくべきであろう。
弁理士 西村陽一