カテゴリー:特許講座
特許出願の早期審査制度(1)
2014.01.08 10:00
特許出願の早期審査制度は、一定の要件の下、出願人からの申請を受けて審査を通常に比べて早く行う制度です。
特許出願については、出願審査請求制度が採用されており、出願審査の請求を行った順に特許出願の審査が行われます。技術分野によって異なりますが、ほとんどの特許出願は、出願審査請求後、特許庁から最初のアクション(拒絶理由通知や特許査定)があるまでに1年以上を要しています。
これに対して、早期審査を申請した出願の平均審査順番待ち期間は、早期審査の申請から平均約1.9か月となっており(2012年実績)、通常の出願と比べて大幅に短縮されています。早期審査の請求は、全ての特許出願に対して認められるわけではなく、以下に示す特許出願に限定されています。
(1) 実施関連出願
出願人自身又は出願人からその出願に係る発明について実施許諾を受けた者が、その発明を実施している特許出願
(2) 外国関連出願
出願人がその発明について、日本国特許庁以外の特許庁又は政府間機関へも出願している特許出願(国際出願を含む)
(3) 中小企業、個人、大学、公的研究機関等の出願
出願人の全部又は一部が、中小企業又は個人、大学・短期大学、公的研究機関、又は承認若しくは認定を受けた技術移転機関(承認TLO又は認定TLO)である特出願
(4) グリーン関連出願
グリーン発明(省エネ、CO2 削減等の効果を有する発明)について特許を受けようとする特許出願
(5) 震災復興支援関連出願
出願人の全部又は一部が、災害救助法の適用される地域に住所又は居所を有する者であって、地震に起因した被害を受けた者である特許出願、又は、出願人が法人であり、当該法人の特定被災地域にある事業所等が地震に起因した被害を受けた場合であって、当該事業所等の事業としてなされた発明又は実施される発明である特許出願
(6) アジア拠点化推進法関連出願
出願人の全部又は一部が、特定多国籍企業による研究開発事業の促進に関する特別措置法(アジア拠点化推進法)に基づき認定された研究開発事業計画に従って研究開発事業を行うために特定多国籍企業が設立した国内関係会社であって、該研究開発事業の成果に係る発明(認定研究開発事業計画における研究開発事業の実施期間の終了日から起算して2年以内に出願されたものに限る。)に関する特許出願PCT国際出願(3)
2013.12.25 10:00
今回は、国際調査・補充国際調査について説明いたします。
1.国際調査
受理官庁(日本特許庁)に対してPCT国際出願を行うと、自動的に国際調査機関(日本特許庁)が国際調査を行い、出願人に国際調査報告が送付されます。国際調査の目的は、国際出願の請求の範囲に記載された発明に「関連のある先行技術」を発見することであり、国際調査報告には、
・関連があると認められた先行技術または関連技術が記載された文献のリスト
・発明の分類(国際特許分類)
・調査を行った技術分野
・発明の単一性の欠如に関する情報
等が記載されています。また、国際調査機関は、併せて、国際出願の請求の範囲に記載された発明が特許性(新規性、進歩性、産業上の利用可能性)を有するものと認められる否かの審査官の見解を示した国際調査見解書を作成し、出願人に送付します。
国際調査見解書に示された特許性についての見解は、予備的かつ非拘束なものであり、最終的な特許性の判断は、各指定官庁に委ねられていますが、特許庁の審査官の見解であることから、出願人にとっては、国内移行をするか否かの判断のための有用な情報となります。
2.補充国際調査
国際調査に加えて、出願人の任意の請求により、別の国際調査機関による国際調査を提供する補充国際調査が、2009年1月から開始されました。補充国際調査の目的は、複数の国際調査機関に調査を依頼することによって、国際段階で先行技術を極力把握し、国内段階で新たな先行技術文献が発見される可能性を減少させることです。
補充国際調査は、出願時における国際出願に基づいて、発明の単一性の要件を満たす一の発明のみについて行われます。
補充国際調査の請求は、出願人が優先日から19ヶ月までにWIPO国際事務局に対して行う必要があります。
補充国際調査は、遅くとも優先日から22箇月の期間が満了する時までに開始され、優先日から28箇月以内に補充国際調査報告書が作成されます。なお、2012年8月時点の補充国際調査機関は、以下の通りです。
・オーストリア特許庁
・欧州特許庁
・フィンランド特許庁
・連邦知的財産特許商標行政局(ロシア特許庁)
・スウェーデン特許登録庁
・北欧特許庁PCT国際出願(2)
2013.12.18 10:00
今回は、PCT国際出願制度のメリットについて説明いたします。
1.自国の特許庁に出願書類を提出するだけで、世界各国へ出願したのと同じ効果が得られる。
各国の特許庁に個別に出願書類を提出することなく、各国における「出願日」を確保することができますので、PCT国際出願の重要なメリットのひとつです。2.優先日から30ヶ月以内に各指定国に国内移行すればよいので、ビジネスの進捗状況に応じて、本当に権利を取得したい国を決定することができると共に、翻訳作業に要する時間を確保することができるというメリットがあります。
また、特許性の判断や市場動向の分析等に多くの時間をかけることで、最終的に取得したい権利範囲を検討する時間的猶予を持つこともできます。3.PCT国際出願では、国際公開される前に国際調査報告及び国際調査見解書が提供されますので、出願人は特許性判断の指針とすることができるというメリットがあります(任意で特許性に関する国際予備報告も入手可能です。)。これにより、その後の手続を断念し、翻訳や国内移行手続に関する支出を抑えることも可能です。
4.PCT国際出願では、国際出願時に受理官庁へ1回の手続を行えばよく、パリルートを利用して各国ごとに直接出願を行う場合のように、各国ごとに優先権主張の手続を行う必要がないというメリットがあります。
5.PCT国際出願では、国際段階で請求の範囲の補正が認められており、1回の補正手続きを行うだけで、その効果が各指定国に及びますので、各指定国毎に補正手続きを行う必要がないというメリットもあります。
6.PCT国際出願を国内移行した際、幾つかの指定国では、国内手数料が減額の対象となる可能性があります。日本では、日本国特許庁が国際調査報告を作成したPCT国際出願が日本に国内移行した場合、当該出願にかかる審査請求手数料が約40%減額されます。
PCT国際出願(1)
2013.12.11 10:00
今回は、まず、PCT国際出願制度の概要について説明いたします。
1.PCT国際出願制度は、特許協力条約(Patent Cooperation Treaty、以下「PCT」という。)に基づく国際的な特許出願の制度であって、自国の言語で作成した出願書類を、自国の特許庁に提出することによって、その提出日(国際出願日)の時点で有効な全てのPCT加盟国に対して、国際出願日と同日に国内特許出願を提出したことと同様の効果が得られる制度です。
2.同一の発明について多数国で特許権を取得しようとすると、基本的には各国ごとにその国の公用語でその国の様式に従って特許出願を行う必要がありますが、全ての国に対して同日に、それぞれ異なった言語を用いて異なった出願書類を提出することは、とても煩雑な作業であり、事実上不可能であるといえます。
PCT国際出願制度は、このような手続きの煩雑さ、非効率さを改善するために設けられた国際的な特許出願制度です。3.PCT国際出願制度の特徴
1) PCT国際出願願書の方式審査は、PCT国際出願を受理した受理官庁が国際的に統一された基準で行います。
2) 全てのPCT国際出願について、その発明に関する先行技術があるか否かを国際調査機関が調査する「国際調査」を行い、その結果が「国際調査報告」として出願人に提供されます。
3) PCT国際出願は、出願人の希望により、特許性を判断する際の国際的な一定基準を発明が満たしているか否かの予備的な審査である「国際予備審査」を受けることができます。その結果は、「特許性に関する国際予備報告」として出願人に提供される。
4) PCT国際出願を指定国に国内移行させる場合、その期限は、優先日から通常30ヶ月まで認められます。
5) 全てのPCT国際出願(明細書、請求の範囲、図面)は、優先日から18ヶ月を経過したのちすみやかに国際公開されます。
6) PCT国際出願制度においては、出願人は、出願書類を一通だけ受理官庁に提出すればよく、出願人が受理官庁へ提出した願書に記載した事項を変更するための要請についても、WIPO国際事務局が記録の変更を行います。
その後、指定官庁が実体審査のために関係書類が必要となる場合であっても、出願人に代わってWIPO国際事務局が必要なコピーを作成し、関係する指定国からの要請に応じて送付します。
6) 特許の取得を希望する指定国については、優先日から通常30ヶ月の期限が満了する前までに、PCT国際出願をその指定国に国内移行する必要があり、具体的には、その指定国が認める言語に翻訳した翻訳文を指定官庁に提出することになります。

