コンピュータ・ソフトウエアの保護(8)
2014.05.28 10:00
<コンピュータ・ソフトウエア関連発明の外国での権利化>
今回は、コンピュータ・ソフトウエア関連発明を外国(米国、欧州)で権利化するについてご説明します。
コンピュータ・ソフトウエア関連発明の特許要件(特に、保護適格性、発明の成立性)は、国によって異なるため、出願国によってどのような要件が課されるのかについて注意が必要です。特に、ビジネス方法やゲームルール等の人為的取り決めであると判断される可能性が高い主題を含む発明については、保護適格性や発明の成立性の判断基準が厳しい場合がありますので、留意する必要があります。
<米国における保護>
1.米国におけるクレームの保護的確性の動向
●1998年 State Street事件のCAFC判決
有用で、具体的かつ実体のある結果を生む主題がクレームされている場合は、ビジネスモデルであっても特許を受けることができる旨を判事。
●2008年 Bilski事件のCAFC判決
方法クレームの保護的確性は、Machine or Transformation(MOT)テストのみに基づいて行うべきである旨を判事。
→クレームの中に特定の機械との結びつきや特定のものを異なる状態へ変化させることが記載されていることが必要。
●2010年 Bilski事件の最高裁判決
MOTテストが有効なテストであることを認めた上で、MOTテストは唯一の基準ではない旨を判事。
ただし、MOTテスト以外に用いることができる具体的基準については示さなかった。
●2013年 CLS Bank vs ALICE事件のCAFC判決
本事件で争われた、ハードウエア要素を明示的には含まないビジネス方法のクレームは抽象的であると結論したが、クレーム主題が「抽象的アイデア」か否かを判断するための具体的基準を示さなかった。
以上のように、2013年5月時点においては、米国において、クレームされた主題が「抽象的アイデア」か否かを判断するための具体的な基準は明らかにされておりません。
→米国においては、クレームが特許の対象であるか否かを判断するための基準は明確ではありません。
2.米国に対してコンピュータ・ソフトウエア関連発明を出願する際の留意事項
①Bilski事件の最高裁判決は、MOTテストを否定していないため、MOTテストをクリアすれば、保護的確性は認められるものと考えられます。
②日本における発明の成立性要件を満たす程度のハードウエア要素を含むクレームは、米国でもMOTテストを満たすとして保護適格性を満たす蓋然性は高いものと考えられます。
従って、米国にコンピュータ・ソフトウエア関連発明を出願する際は、日本における発明の成立性を満たす程度のハードウエア要素を含むクレームを少なくとも入れておくことが望ましいといえます。
<欧州における保護>
欧州特許条約(EPC)52条には、コンピュータプログラム自体(as such)は特許を受けることができないと規定されています。
EPC52条の非特許条項からコンピュータプログラムを外すEU指令案が上程されましたが、2005年の欧州議会がこれを否決されました。
コンピュータプログラム自体は著作権で保護されると共に、プログラムをコンピュータに実装した技術は、特許の対象になります。
従って、プログラムで制御されるコンピュータ、プログラムで制御される処理方法は、所定の要件を満たせば、特許を受けることができます。
1.欧州(EPC)の審査手法
①保護適格性
審査ガイドラインには、「クレームされた主題が明らかに技術的な性質を有さない場合には、52条(2) 及び(3)に基づき拒絶すべきである。」と記載されています。
ただし、この保護的確性の判断は比較的緩く、コンピュータや端末等のハードウエア要素がクレームに含まれていれば、52条の非特許対象には該当しません。
②進歩性
ヨーロッパ特許庁におけるコンピュータ・ソフトウエア関連発明ついての進歩性の判断基準は、日本や米国とは少し違っています。
まず、クレーム全体から見た技術的性質 (technical character)を特定します。
そして、クレームの中で特定された技術的性質のみが、進歩性の評価対象となり得ます。
例えば、コンピュータシステムの部分は従来の公知のコンピュータシステムと同じで、ビジネス方法のみが新規なコンピュータシステムのクレームについては、ビジネス方法の部分というのは技術的性質ではないので、進歩性の評価対象とはならず、クレーム全体の進歩性が否定されます。
2.欧州に対してコンピュータ・ソフトウエア関連発明を出願する際の留意事項
上述しましたように、欧州では、ビジネス方法のみが新しいコンピュータ・ソフトウエア関連発明は、進歩性が否定される可能性が高いので、そういったクレームのみを含む出願を欧州にするべきか否かについては、慎重に検討する必要があります。