カテゴリー:ネーミング
ネーミング(4)
2013.05.22 10:00
今回からは、ネーミングの案出作業についてお話します。
ネーミングの案出作業は、[キーワードの抽出]→[キーワードの展開]→[ネーミング(造語)作業]→[言語調査]→[商標調査]→[ネーミング案の決定] という流れになります。今回は、1.キーワードの抽出、2.キーワードの展開について説明し、次回は、3.ネーミング(造語)作業、4.言語調査、5.商標調査、6.ネーミング案の決定について説明します。
1.キーワードの抽出
ネーミング・コンセプトから、想起されるキーワードを発案するプロセスです。キーワードは、一般的に、日本語のほか基本的な英語が中心となります。ここでは、ネーミング・コンセプトから逸脱しない範囲で、可能な限り様々な視点から、自由にキーワードを発案し、ネーミング・コンセプトの「柱」ごとに分類・整理します。
このプロセスでは、商標調査により、同種の商品・サービスについての商標出願や商標登録の事例を調べ、同様のネーミング・コンセプトに基づくと思われる代表的なキーワードを抽出することが重要です。
最終的なネーミングは先行事例と類似することを避けねばなりませんが(特に、他人の登録商標に類似する場合は、他人の商標権を侵害することになりますので、注意してください。)、ネーミング・コンセプトが共通の先行事例に多用されるキーワードは、やはり需要者の反応が良いものが選ばれていますから、次の「2.キーワードの展開」の材料としては有益な情報と言えますので、「素材」としての有力なキーワードは押さえておく価値があるといえます。2.キーワードの展開
次に、抽出したキーワードを、前回お話ししました「よいネーミング」の条件である機能性(読みやすい、言いやすい、聞き取りやすい、覚えやすい)を念頭におきながら他のワードへと展開します。一般には次のような方法で展開する場合が多いです。
1.同義語、類似語への展開
例)「美しい(beatiful)」
→(日本語)可憐、美麗、綺麗 等、
(英語)pretty、lovely、elegant、bonny 等
2.他の言語への展開
例)「美しい(beatiful)」
→bello(伊)、schon(独)、beau(仏)、hermoso(西)、漂亮(中) 等
3.象徴語、連想語への展開
例)「美しい(beautiful)」
→Venus(ローマ神話)、Freya(北欧神話) 等
このプロセスでは、ヒット商標の事例を調べることにより、キーワードの展開作業へのヒントを見つけることも重要です。ネーミング(3)
2013.05.15 13:11
今回はよいネーミングについてお話しします。
ビジネスにおいて「よいネーミング」とは、究極的には商品やサービスが「継続的に売れる」事に資するネーミングです。
インパクトの高いネーミングで爆発的にヒットする商品やサービスもありますが、商品やサービスの内容、品質が伴っていない場合は、売上はやがて低下しますし、短期的なインパクトの高いネーミングほど、飽きられやすく、より新奇なネーミングの競合商品の中に埋没するのも早いという傾向があります。
一方、ネーミングの失敗原因の中で多いのが、名付け側の「こだわり」や「思い入れ」が強すぎることによる「独善的なネーミング」です。こだわりや思い入れは、前回お話ししましたネーミングの機能の核となる重要なものではありますが、「継続的に売れる」ネーミングの案出に当たっては、常に商品やサービスの需要者への効果を想定しつつ検討し、再評価するプロセスを繰返すことが必要です。
以上を踏まえて、よいネーミングの条件を考えると、以下のようなものが挙げられます。①機能性(読みやすい、言いやすい、聞き取りやすい、覚えやすい)
メディア等を通じた広告で商品・サービスに最初に需要者が接した際に、読みやすく、言いやすく、聞き取りやすいネームが当然有利ですし、覚えやすいネームがその後の購買行動までの時間経過に耐えて記憶に残り、販売に貢献します。特に口コミの場合、ネームの覚え易さが伝播力を左右します。従って、この条件は良いネーミングの基本条件となります。
ただ、人間の記憶は必ずしもネームの単純性や馴染み易さとは相関しない場合があり、ある程度複雑なネームは異なる場合があります。②直感性(商品・サービスあるいは組織等のコンセプトやイメージを把握しやすい)
需要者はメディア等を通じて日々多数の商品・サービスとそのネームに接しているため、ネームがその注意を喚起して関心を引き付けるためには、需要者のニーズやウオンツと商品・サービスのコンセプトやイメージとの関連性を瞬間的に直感させるネームが有利です。
言い換えれば、需要者は多数の商品・サービスのネームに接する中で、無意識に、直感によって自分に関係のありそうなものとそうでないものを分別しています。従って、ネーミングは商品・サービスや提供企業などのコンセプトやイメージを直感的に把握させるものが望ましいといえます。
環境や高齢化への関心が高まりを反映して「エコ」や「シルバー」「シニア」といった文字を含むネーミングが増加しているのも、この直感性に訴える効果を狙ったものと思われます。③耐久性(時間経過により色褪せない、社会環境や流行に左右されにくい)
ネーミングはその時代の社会性や流行を反映し、いわゆる「旬」のワードが好んで取り入れられる傾向がありますが、社会環境変化のスピードが速まっているために「廃れ」も早くなっています。また、人気の高いワードが類似する競合ネームが急速に増加しますので埋没も早まり、需要者に飽きられやすくなります。
特に、企業名のネーミングでは、事業の多様化や転換により、ネーミングが企業コンセプトと剥離する可能性もたかまります。
商標に代表されるネームは、継続的な使用により信用を化体すべきものですから、ネーミングにおいては社会環境や流行に左右されず、時代を超えて色褪せないという視点も重要です。
ただ、この観点も、対象物のライフスパン(商品寿命)やターゲットとする需要者の特性を踏まえる必要があり、商品・サービスの販売計画や広告計画を念頭に置いたネーミングが重要となります。④個性(人の心に鮮烈な印象を与え、記憶に残りやすい)
他との識別機能を発揮するためには、ネーミングには個性が必要です。ただ、ネームに接した需要者が受ける印象は主観的なものであり、前述のマーケットのセグメントや商品・サービスのジャンルにより大きく左右されます。
あるセグメントの需要者にとって特定の商品・サービスのジャンルにおいて好ましい印象を与える個性的なネームも、異なるセグメントやジャンルにおいては悪印象を与えることも多いため、特に個性的なネームを採用する場合は、需要者のターゲットによる施行や商品・サービスのジャンルにおける先行事例についての十分な調査検討が必要となります。⑤国際性(外国人が接してもイメージに違和感がなく、ネガティブな意味がない)
海外市場も視野に入れた商品やサービスの場合、国際的に通用するネーミングが要求されます。英語等の外国語を用いたネーミングの場合、日本国内で一般的に認識されているワードの意味とネイティブの需要者がそのワードから直感する意味とがズレている事例は数多くあります。また、日本語のワードを使用したネームの場合、当該日本語の発音や表記が、海外市場では社会的・宗教的に禁忌されているワードの発音やイメージに合致・類似するケースもありますから注意が必要です。
例えば、「近畿」の二文字を発音通りローマ字表記した「Kinki」が、英語では「奇妙な」の意味を持つ「Kinky」と似た発音になるため忌避されることはよく知られていいますが、「雌鶏」の文字や図柄を商標に用いた場合、中国では「鶏」が「妓」と同じ「ジー」といったケースもあります。
その他、海外市場で登録商標となっているネームと同一・類似のネーミングは当然採用できませんが、登録商標でなくとも海外の特定地域で普通名称・慣用商標となっているワードも、当然避ける必要がある場合があります。⑥登録性(商標登録要件を具備している)
商品やサービスのネーミングである以上、商標登録要件を満たしていることが必要です。特に販売拡大の局面では、他社による同一又は類似の登録商標の出現により事業そのものに支障を生じるリスクが想定されます。最近の特定国による、いわゆる「先回り商標権取得」の頻発傾向も踏まえ、事業展開の計画を念頭に置いて、国内・海外での商標権取得に耐え得るネーミングを選択することが必要です。ネーミング(2)
2013.05.08 10:00
今回はネーミングの機能についてお話しします。
ネーミングの目的は情報発信ですが、その機能は大きく以下のように分類できます。
①他との識別機能
他との識別機能はネームの必須機能であり、商法上の自他商品役務等識別機能の根幹を成す機能です。需要者やステークスホルダー(特に取引者)における他社の商品やサービスとの混同を防ぎ、機会損失や不利益を防止する機能で、識別力を発揮させるには特徴的な外観や称呼による他との差別化が重要となります。②特性の伝達機能
ネーミングの目的から、やはり必須に近い機能であり、対象物のコンセプトや特徴、魅力を需要者に的確に伝えるものです。短いネームに対象物の魅力を凝縮できれば需要者の合理的な購買意思決定において競争優位に立てる可能性が高くなります。
ただ、伝達すべき特性情報のレベルは、ネーミングの対象物の市場におけるポジションにより異なります。提供者の知名度が低い場合、あるいは対象物自体が新規性の高いものである場合には、伝達すべき特性は具体性・直接生・分かりやすさが重要となりますが、提供者の知名度が高い場合(ブランドが確立している場合)や成熟市場に属する商品やサービスの場合になどにおいては、象徴性・直感生がより重要となり、分かりやすさの重要性は相対的に低下する傾向があります。③イメージの訴求機能
最近のネーミングでは極めて重視される機能です。マーケットのセグメント化の傾向が進んだ近年においては、商品のターゲットとなる需要者に応じて、その属する社会的階層、ライフスタイル、消費性向、流行などを踏まえて、それらに適合する言葉(語彙)、音感、字体、シンボル等を選択し、対象となるセグメントの需要者が反応し、好感を持つイメージを形成することが要求されます。④アイデンティティの構築機能
商品やサービスよりも提供者(企業)の理念やコンセプトを需要者に的確に発信して、信頼感や安心感、優越感を感じさせることで需要者に良好なイメージを持ってもらう機能です。アイデンティティの構築には一貫性や統一性が有効であるため、ネーミングにおいては「核」となる言葉を定め、それを拡張、展開、発展させる形で求心力のあるネームを考えていく方法が一般的です。ネーミング(1)
2013.05.01 10:00
これから数回にわたってネーミングについてお話しさせていただきます。
1.ネーミングとは
まず、ビジネス社会における「ネーミング」は、何らかの対象(商品、サービス等)に適切な「ネーム(名称)」を考案して与える作業であり、主にその対象物の需要者(消費者)やステークホルダー等に対する「情報発信」を目的としています。2.ネーミングの分類
ビジネスにおけるネーミングは、大きく以下のように分類できます。①商品又はサービスの名称
商品又はサービスの名称は、複数の商品(サービス)群に共通して使用する「シリーズ名」と、個別の商品(サービス)毎に付される「アイテム名」に分かれる場合があり、それらを単体で、あるいは組み合わせて使用することがあります。また、商品(群)やサービス(群)を互いに識別するための文字や記号が付加される場合もあります。
②組織(会社、団体、機関、店舗等)の名称
組織の名称には、いわゆる法人名や屋号のほか、近年は地域名や施設名も含まれます。
③ブランド名
ブランド名は、一般的には複数の商品(サービス)群に共通して使用する包括的な上位名称で、組織の名称自体がブランド名となっている場合も多くあります。ブランド名には、従来の特定企業の「事業ブランド名」のほか、近年は連携する複数企業が共通して使用する「企業横断ブランド名」も増えています。
「事業ブランド名」としては、例えば、KDDIの移動体通信事業ブランド「au」、花王の化粧品ブランド「ソフィーナ」等が該当します。
また、「企業横断ブランド名」としては、例えば、アサヒビール、近畿日本ツーリスト、トヨタ自動車等、業種を越えた複数の企業が共通して用いるブランド名「Will」があります。
④コミュニケーション名
コミュニケーション名は、主たる名称を補完する補完的名称(愛称)であり、サブネームやペットネーム、キャラクターネーム、スローガンなどがこれに当たります。
例えば、「日本電気株式会社」の場合、「NEC」がこれに該当します。
サブネームやペットネームは主たる名称に必要に応じて付加して使用することでその情報発信力を補完するもので、サブネームは商品(サービス)の特性を補足的に表示し、ペットネームは需要者(消費者)に親しみやすさ等の印象を喚起するイメージ的なものが多く見られます。
キャラクターネームは、商品(サービス)とは別に設定した架空又は実在のキャラクターの名称で、それを単体あるいは商品(サービス)名に付加して使用し、キャラクター自体が有する知名度による商品(サービス)の顧客誘因力の強化を図るものです。
スローガンは、主にブランドの将来的な方向性を示唆するメッセージ的な表現であり、企業名とのシナジー効果の発揮を意図するものが多く見られます。例えば、トヨタの「Drive Your Dreams.」がこれに該当します。
⑤機能名・特性名
近年のネーミングの新たな傾向として、商品・サービス名やブランド名とは別に、商品・サービスの機能や特性を表し、これを共通の機能や特性を有する複数の商品・サービスに横断的にサブネームとして使用するネーミングが増えています。例えば、シャープ株式会社のイオン発生機能の搭載商品群に使用されている「プラズマクラスター」がこれに該当します。こうした機能名・特性名は、新機能に関する技術を特許出願する際に、その機能を搭載する商品の展開に当たり商標登録について検討する必要があります。ネーミングを検討する際には、まず、当該ネームが、ビジネスにおいて上記のどの役割を果たすものとするかを検討することが望ましいと思われます。