コンピュータ・ソフトウエアの保護(3)
2014.04.16 10:00
<コンピュータ・ソフトウエア関連発明の保護>
特許法第36条第4項第1号は、
「…発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 …その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」
と規定しています。これを実施可能要件といい、明細書の記載がこの要件を満たしていない場合は、同号違反として拒絶されます。
●コンピュータ・ソフトウエア関連発明について、上記実施可能要件を満足させるために、ソフトウエア処理を行うコンピュータの構成が周知のコンピュータと同じであれば、コンピュータの構成要素を全て図面等に表す必要はありませんが、ソフトウエアの処理がコンピュータのプロセッサやメモリ等のハードウエア要素によってどのように実行されるのかが分かるように実施形態を記載すればよいことになります。つまり、
1)課題を解決するためにどのようなデータが入力されるのか
2)入力データがどのように処理されるのか
3)処理結果がどのように出力されるのか
という処理の流れを機能的に複数の段階に分割し、それぞれの機能をブロック化してブロック図に表すと共に、それぞれの機能処理をステップとしたフローチャートを作成することが必要となります。なお、実施可能要件を満たすためには、処理の内容がブラックボックスにならないように、入力データから所望の出力データを得るまでの処理内容を具体的に説明しなければならないことに留意する必要があります。
○コンピュータ・ソフトウエア関連発明に特有の実施可能要件違反の例
(1)請求項に係る発明に対応する技術的手順又は機能が抽象的に記載してあるだけで、その手順又は機能がハードウエアあるいはソフトウエアでどのように実行又は実現されるのか記載されていない場合
例1:請求項に、数式解法、ビジネス方法、あるいはゲームのルールを実行する情報処理システムが記載されているにも関わらず、明細書に、これらの方法やルールをコンピュータ上でどのように実現するのか記載されていないため、請求項に係る発明が実施できない場合
例2:コンピュータの表示画面等を基にしたコンピュータの操作手順が説明されているものの、コンピュータの操作手順からは、そのコンピュータの操作手順をコンピュータ上でどのように実現するのかが記載されていないため、請求項に係る発明が実施できない場合
判決例 平成24年12月25日 知財高裁 平成24年(行ケ)第10053号
(2) 発明の詳細な説明の記載において、請求項に係る発明の機能を実現するハードウエアあるいはソフトウエアが機能ブロック図又は概略フローチャートで説明されており、その機能ブロック図又はフローチャートによる説明だけでは、どのようにハードウエアあるいはソフトウエアが構成されているのか不明確である場合
●従って、コンピュータソフトウエア関連発明の実施形態を記載する場合は、機能ブロックのそれぞれと、コンピュータのハードウエアとの関係を実施形態において説明する必要があります。具体的には、ある機能を実現するためのブロックに関してその機能を実現するための処理フローを記載すると共に、その処理を実現するためのプログラムをコンピュータのプロセッサに読み込まれて実行されること等を説明する必要があります。
(3) 請求項が機能を含む事項により特定されているが、発明の詳細な説明ではフローチャートで説明されており、請求項記載の機能とフローチャートとの対応関係が不明確である場合
例3:複数の機能手段から構成されるビジネス支援用情報処理システムとして請求項に記載されているにも関わらず、発明の詳細な説明にはビジネスの業務フローしか記載されておらず、請求項記載の機能手段と業務フローとの対応関係が不明確である結果、請求項に係る発明が実施できない場合
●このような記載不備の指摘を受けないためには、請求項に記載された機能手段がフローチャートのどの部分に対応するのかを実施形態において明確に対応づけて記載することが望ましく、また、機能ブロック図を追加して、どの機能ブロックがフローチャートのどの部分に対応するのかを説明することも有効です。

