IT知財紛争集団線 米アップル手動の企業連合 グーグル狙い撃ち
2013.11.27 10:00
[シリコンバレー=兼松雄一郎]知的財産をめぐり米アップルと米グーグル・韓国サムスン電子連合の対立が激しさを増している。アップルなどの特許を共同保有する管理会社がこのほど特許侵害でグーグルなどを米連邦地裁に提訴した。ネット検索の内容に合った広告を選ぶ技術などが対象で、検索が主力のグーグルを狙い撃ちした形。特許管理会社を使い間接的にグーグル陣営への攻撃に出ている。
訴訟の相手はグーグルを筆頭に、同社の基本ソフト(OS)「アンドロイド」を使う主な端末メーカーが並ぶ。今回の訴訟はアップルがグーグルとアンドロイドの最大の採用者であるサムスンの連合に対し仕掛けた代理戦争の色合いが強い。
アップルとサムスンは巨額の訴訟費用をかけて」世界各地で特許紛争を繰り広げている。今回の訴訟もその局地戦の一つと言える。IT大手はそれぞれの特許紛争を抱え、個別企業間の関係は錯綜してはいるが、大きなくくりではアンドロイド陣営とアップルの戦いを軸とした構図が続きそうだ。
大手IT(情報技術)企業が共同で特許を購入したり防衛したりするようになったのは、スマートフォン(スマホ)や検索などIT製品・関連サービスで使う特許数が莫大になったことが背景にある。
例えばスマホには10万件もの特許が必要と言われる。1社だけでその特許群をすべて開発・購入することは難しく、訴訟対策にも限界がある。一方、共同で多数の特許を購入・管理すれば、お互いに特許を使えるうえ、数の力を背景に特許侵害を巡る和解交渉などを祐理に進めやすい。
日経産業新聞 2013年11月6日
OSを非公開にしているアップルは、グーグルが無償公開しているOS(Android)を採用しているHTCやサムスンを相手取って特許侵害で裁判を展開しており、それに対抗してグーグル連合も訴訟を繰り返しています。
PC向けOSのデファクトスタンダードを握ったマイクロソフトがPC市場を席巻したように、モバイルOSのデファクトスタンダードをどちらの陣営が握るかということは、それぞれの陣営にとって、その後の展開に極めて重要であり、クローズ戦略を採用しているアップルと、オープン戦略を採用しているグーグルとの代理戦争であるといえます。
2013年11月12日に公表されたスマートフォンの市場調査では、グーグルのOS「Android」を搭載する端末の世界シェアが80%を超えており、グーグル陣営が優勢であることは否めません。
しかしながら、ある企業の特許が技術標準として採択される場合、他企業がその特許を使用する時、特許権者は「公平で、合理的、かつ非差別的」にライセンススしなければならないというFRAND条項があり、グーグル陣営のサムスンやモトローラが所有している基本特許、特に無線技術関連特許は標準必須特許であってFRAND条項の影響を受けるものが多くありますので、グーグル陣営の標準必須特許が有効な武器として機能しない可能性もあります。
このように、両陣営の知財紛争は予断を許さない状況になっておりますので、今後、両陣営がどのような戦い方をし、最終的にどちらの陣営が勝利するのかは非常に興味があるところです。
弁理士 西村陽一
知的財産契約(7)
2013.11.20 10:00
今回からは、共同研究開発契約について説明します。
まず、共同研究開発とは、複数の当事者がそれぞれ研究または開発の一定の分野を分担して研究・開発を行うことをいいます。
共同研究開発においては、研究成果が得られるか否かが確定しておらず、失敗に終わる可能性もありますが、失敗に終わった場合であっても、一定の財産的価値が発生する場合があります。従って、共同研究開発においては、契約の対象が曖昧であるという特徴があります。
そして、共同研究開発契約では、1)費用負担や研究・開発の分担割合といった成果を創出するための両当事者の義務遂行に関する合意事項と、2)研究開発の成果の帰属や利用等の成果の取り扱いに関する合意事項とがあり、後者の合意が最も難航するところです。
また、1)研究開発の共同化によって市場における競争が実質的に制限される場合や、2)研究開発を共同して行うことには問題がない場合であっても、共同研究開発の実施に伴う取決めによって、参加者の事業活動を不当に拘束し、共同研究開発の成果である技術の市場やその技術を利用した製品の市場における公正な競争を阻害するおそれのある場合は、独占禁止法上の問題となりますので、注意を要します。
詳しくは、公正取引委員会が平成5年4月20日に公表し、平成17年6月29日及び平成22年1月1日に改定された「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」をお読みいただくことをお勧めいたします。
○指針の構成
1)研究開発の共同化に対する独占禁止法の適用
判断に当たって考慮される事項としては、①参加者の数、市場シェア等、②研究も性格、③共同化の必要性、④対象範囲、期間等があり、①については、一般的に参加者の市場シェアが高く、技術開発能力等の事業能力において優れた事業者が参加者に多いほど独禁法上問題となる可能性が高くなります。
2)共同研究開発の実施に伴う取り決めに対する独占禁止法の適用
指針では、①共同研究開発の実施に関する事項、②共同研究開発の成果である技術に 関する事項、③共同研究開発の成果である技術を利用した製品に関する事項に区分し、それぞれについて、白色条項、灰色条項、黒色条項に分けて明らかにしています。知的財産契約(6)
2013.11.13 10:00
今回は、ライセンス契約と独占禁止法とのについて説明します。
ライセンス契約を結ぶ場合、その契約内容は、民法における契約自由の原則に基づいていかなるように定めてもよいのが基本ですが、市場における競争秩序に悪影響を及ぼす契約内容は、独占禁止法により違法として取り締まられることになります。従いまして、独占禁止法が禁止している「私的独占」、「不当な取引制限」及び「不公正な取引方法」に該当しないような内容にしておく必要があります。
独禁法21条は、「著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為については適用しない」と規定していますが、如何なる行為が独禁法上の「私的独占」、「不当な取引制限」、「不公正な取引方法」に該当するのかは一義的に確定することができませんので、公正取引委員会が平成19年9月28日に公表し、平成22年1月1日に改定された「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」をお読みいただくことをお勧めいたします。
この指針は、知的財産のうち技術に関するものを対象とし、技術の利用に係る制限行為に対する独占禁止法の適用に関する考え方を包括的に明らかにしたものですので、特許等の技術的な知的財産権に関するライセンス契約を結ぶ際に有用であると考えます。
この指針では、以下に示すように、私的独占及び不当な取引制限の観点からの考え方と、不公正な取引方法の観点からの考え方が示されており、技術の利用に関し制限を課す行為及びその他の制限を課す行為についてある程度具体的に示されています。
A.私的独占及び不当な取引制限の観点からの考え方
1.私的独占の観点からの検討
(1)技術を利用させないようにする行為
(2)技術の利用できる範囲を制限する行為
(3)技術の利用に条件を付す行為
2.不当な取引制限の観点からの検討
(1)パテントプール
(2)マルティプルライセンス
(3)クロスライセンス
B.不公正な取引方法の観点からの考え方
1.基本的な考え方
2.技術を利用させないようにする行為
3.技術の利用範囲を制限する行為
(1)権利の一部の許諾
ア 区分許諾(白色条項)
イ 技術の利用期間の制限(白色条項)
ウ 技術の利用分野の制限(白色条項)
(2)製造に係る制限
ア 製造できる地域の制限(白色条項)
イ 製造数量の制限又は製造における技術の使用回数の制限(白色条項)
(3)輸出に係る制限(白色条項)
(4)サブライセンス(白色条項)
4.技術の利用に関し制限を課す行為
(1)原材料・部品に係る制限(灰色条項)
(2)販売に係る制限(灰色条項)
(3)販売価格・再販売価格の制限(黒色条項)
(4)競争品の製造・販売又は競争者との取引の制限(灰色条項)
(5)最善実施努力義務(白色条項)
(6)ノウハウの秘密保持義務(白色条項)
(7)不争義務(灰色条項)
5.その他の制限を課す行為
(1)一方的解除条件(灰色条項)
(2)技術の利用を無関係なライセンス料の設定(灰色条項)
(3)権利消滅後の制限(灰色条項)
(4)一括ライセンス(灰色条項)
(5)技術への機能追加(灰色条項)
(6)非係争義務(灰色条項)
(7)研究開発活動の制限(黒色条項)
(8)改良技術の譲渡義務・独占的ライセンス義務(黒色条項)
(9)改良技術の非独占的ライセンス義務(白色条項)
(10)知徳知識、経験の報告義務※黒色条項:原則として不公正な取引方法に該当する制限行為
※灰色条項:公正競争阻害性があれば不公正な取引方法に該当する制限行為
※白色条項:原則として不公正な取引方法に該当しない制限行為知的財産契約(5)
2013.11.06 10:00
今回は、ライセンス契約において、「技術的効果が認められない場合(技術面での瑕疵)」や権利に瑕疵がある場合(権利面での瑕疵)」について説明します。
1.技術面での瑕疵
例えば、特許ライセンス契約においては、「特許明細書に記載の技術的効果が認められなかった場合」や「工業的又は商業的な実施(事業化)が可能でないことが判明した場合」についても検討し、契約書に盛り込む必要があります。特許明細書に記載の技術的効果が認められなかった場合は、担保責任として、瑕疵修補請求、損害賠償請求、実施料の減額請求が可能であり、目的府達成の場合には契約解除も可能です。
具体的には、以下のような規定を設けることになります。第○条 甲(ライセンサー)は、乙(ライセンシー)に対し、本件特許発明に関し、当業者が実施した場合に本件特許権の明細書に記載された技術的効果をそうすることを保証し、工業的又は商業的実施が可能であることは保証しない。
2.権利面での瑕疵
特許無効審決の確定により実施権は消滅し、実施契約も無効となりますので、ライセンサーはそれ以降の実施料を請求することはできません。しかしながら、無効審決確定前にライセンシーが支払った実施料については、不返還特約を定めておく必要があります。
具体的には、以下のような規定を設けることになります。第○条 乙(ライセンシー)は、次の各号の一に該当する場合といえども、特許無効審決確定の日までの実施料の支払義務を免れないものとする。
(1)許諾特許に関し、特許請求の範囲が変更もしくは減縮され、または、特許を無効にすべき旨の審決もしくは取消決定が確定したとき。
(2)出願を拒絶すべき旨の査定もしくは審決が確定し、または出願が却下されたとき。また、先使用権の存在が判明した場合については、先使用権者の存在をライセンシーが予見すべきであったとはいえませんので、実施権が独占的通常実施権の場合は、以下のような規定を設けることを検討する必要があります。
第○条 本件実施権に対抗しうる先使用権が存在した場合は、乙(ライセンシー)は、先使用権の存在が明らかになった時点以降の実施料について減額を請求し、または、将来に向かって本契約を解約することができる。
知的財産契約(4)
2013.10.30 10:00
今回は、ライセンス契約において、「第三者の権利侵害によってライセンス対象の利用に障害が生じた場合」及び「ライセンス対象の利用によって第三者の権利を侵害することになった場合」について説明します。
1.権利侵害に関する担保責任
契約書上では、第三者による権利侵害に対して、ライセンサーが侵害排除義務を負う規定を設けるか否かを検討すべきであり、具体的には、以下のような規定を設けることになります。第○条 乙(ライセンシー)は本権利に関し、第三者の侵害又は侵害の恐れのある行為を発見したときは、直ちに甲(ライセンサー)に通知しなければならない。
第○条 乙(ライセンシー)は本権利に関し、第三者の本権利を侵害又は侵害する恐れのある事実を知ったときは、直ちにその旨を甲(ライセンサー)に通知するものとする。
2 甲は、前項の通知を受けた場合には、乙と協議の上、自己の判断に基づき当該侵害行為を排除又は予防するための合理的な措置を講じるものとする。…第○条 乙(ライセンシー)は、本権利に関し、第三者による侵害の事実または侵害のおそれがある行為を発見したときは、直ちに甲(ライセンサー)に通知するものとし、必要に応じて甲乙協力してその排除または予防の措置をとるものとする。
なお、ライセンシーが専用利用権者の場合は、ライセンシーが侵害者に対する差止請求権・損害賠償請求権を有する旨の明文規定(特許法100条、102条等)が設けられていますが、通常利用権の場合はそういった規定がありません。従って、ライセンシーが通常利用権者の場合は、民法が適用されることになります。民法上、ライセンシーが通常利用権者の場合は、差し止め請求権はなく、判例は、独占的通常利用権者についてのみ損害賠償請求権を認めています。
2.第三者の権利侵害
ライセンス契約においては、ライセンシーがライセンス対象を利用することによって第三者の権利を侵害することになった場合、そのリスクをどちらの当事者が負担するのか、契約をどうするのか等を検討して契約書に盛り込む必要があります。
一般的には、以下のような規定を設けることになります。第○条 甲(ライセンサー)は、乙(ライセンシー)に対し、当該権利に係る対象の利用が第三者の本権利を侵害又は侵害しないことを保証しない。
2 本件対象の利用が前項の第三者の権利を侵害することとなる場合、本契約は当然に終了し、権利侵害が確定した時点以降の利用料の支払義務は発生しないものとする。なお、乙は、当該時点までに発生した実施料について、その支払を拒絶し、又は、甲に対し返還請求を行うことはできないものとする。中国 改正商標法 2014年5月1日施行
2013.10.23 10:00
改正商標法の三大注目点
中華人民共和国商標法は1982年に制定され、1993年及び2001年の2会改正された。2003年、国家工商総局は国務院から第3回商標法改正の具体的準備作業を委託され、2009年11月18日に〈商標法(改正審議稿)〉を国務院に提出した。2012年10月31日〈中華人民共和国商標法改正案(草案)〉が国務院常務会議討論を通過し、2013年8月30日に第12期全国人民代表大会常務委員会第4回会議を通過した。
現行商標法は施行から30年を経過し、2012年までの中国の商標出願件数及び登録件数の累計はそれぞれ1136万件と765.6万件で、有効な商標登録は既に640万件に達しており、何れも世界第一位である。しかしながら、中国の社会主義市場の経済が発展するにつれて、現行の商標法の内用では実際のニーズに応じるのが既に難しくなっている。その主なものとして、商標登録手続きが比較的煩雑である、商標の権利確定までに長くかかり過ぎる、悪意に基づく商標登録が比較的多く見られる、商標権侵害行為を有効に抑制できていない等である。
今回の商標法改正には3つの重点がある。
1.商標登録出願人の便宜を図る。
・登録出願できる商標に音声を追加する。
・「一商標多区分」出願方式を認める。
・商標登録の電子出願を認める。
・商標審査において商標局と出願人とが意見を交わす手続を追加する。
・商標審査及び審理業務の法定期限を追加する。
・商標異議申立手続きを再構築する。先行権利を理由として提出する異議申立の主体を、「何人も」から「先行権利者又は利害関係人」に改正する。商標局が審理し、異議申立理由不成立と認めた場合は、商標の登録を直接付与する。2.公正な競争による市場秩序を維持し、保護する。
・商標局、商標評審委員会及び裁判所は、具体的な事件の審理過程においてのみ馳名商標を認定できると規定する。更に、馳名商標であることを広告、宣伝、展示及びその他の商業活動で使用できないことを明確にする。
・他人の馳名商標、登録商標を企業名称中に商号として使用することは公衆を誤解させ、不正競争行為に属すると規定する。
・業務取引等の関係で、他人が既に先使用していることを明らかに知っている商標を冒認登録することを明確に禁止する。
・商標登録権者が過去3年における実際使用を証明できないときは、権利侵害人は賠償責任を負わないと規定する。
・商標代理組織の法的責任に、委任者の企業秘密保持が要求されること、冒認登録の状況にある商標の登録出願の代理をしてはならないこと、代理業務を行う出願以外の商標を登録してはならないことを追加する。3.商標専用権の保護を強化する。
・故意に権利侵害に便宜を図る状況を提供し、他人が商標専用権を侵害する行為を幇助することは、商標権者の権利を侵害する行為に属することを明確にする。
・商標権侵害行為の罰金額を引き上げる。商標権侵害行為について、法律で定める厳重に処罰する情状を追加する。
・5年以内に2回以上の商標権侵害行為又はその他の深刻な状況がある場合は、厳重に処罰しなければならない。
・悪意に基づく商標専用権の侵害で、状況が深刻な場合は、懲罰的な賠償を判決できる。
・裁判所が賠償金額を決定するとき、権利者が立証に力を尽くしたが、権利侵害行為に関係する帳簿、資料を主に権利侵害者が保持している場合は、権利侵害者に権利侵害行為に関係する帳簿、資料を提出するよう命ずることができる。
・裁判所が事情を考慮して判断を下す法定賠償額の上限を50万元から300万元に引き上げる。出所 ユニオンパテント工業所有権ニュース(2013年9月30日)より
商標登録これでOK おおいた県おおいた
2013.10.16 13:48
大分県の観光キャッチフレーズ「おんせん県おおいた」とロゴマーク=イラスト=が商標登録される見通しになった。「おんせん県」では登録できなかったが、名称に「おおいた」と加えることで再挑戦が実った。
県は観光キャッチフレーズ「日本一のおんせん県おおいた味力も満載」で使っている「おんせん県」の表記について、類似の登録を防ぐため、昨年10月に商標登録を出願。しかし、特許庁は今年5月、「温泉が多い県を紹介する言葉として広く使われている」として認めなかった。
県はその後、弁理士ら専門家に相談。「おんせん県おおいた」として地域を特定して出願すれば、登録の可能性があるとの助言を受け、再出願したところ、県に7日、特許庁から、登録の前提となる「登録査定」の書面が届いたという。
読売新聞 2013年10月8日 夕刊
——————————————————————————–大分県は、昨年10月9日に「おんせん県」という商標を、「菓子」や「宿泊施設の提供、入浴施設の提供、企画旅行の実施、旅行者の案内」等のサービスを指定して商標登録出願しましたが、「おんせん県」という商標は、商標が本来有していなければならない「自他商品・役務の識別力を備えていないという理由で拒絶されました。
そこで、大分県は、湯おけをモチーフにしたロゴマークと、「おおいた」という県名を追加した新たな商標を出願し直して許可されたということです。
このように、識別力のない商標(ネーム)を登録したい場合、識別力のある図形や文字(単語)を付加することによって登録に導くという手法がよくとられます。
例えば、牛乳という商品に対して「おいしい牛乳」は、普通名称「牛乳」に「おいしい」という品質表示を結合したもので識別力がありませんので、以下のように、識別力のある特徴的な言葉や社名等を付加することで、各社商標権を取得しています。
「わが家のおいしい牛乳」(登録4309691号)
「明治乳業\おいしい牛乳」(登録4639886号)
「森永のおいしい牛乳」(登録5109129号)弁理士 西村 陽一
知的財産契約(3)
2013.10.09 10:00
今回は、ライセンス契約におけるライセンスの対象と対価について説明します。
1.ライセンス契約の対象
まず、ライセンスの前提となる権利を特定する必要があります。
知的財産権は無体物であり、権利内容が不明確であるという特性を有していますので、その点を考慮してできるだけ明確になるように特定する必要があります。
最も確実な権利の特定方法としては、特許番号や登録番号で特定する方法です。
それ以外に、「~製品に使用されている全ての特許」といった特定方法も可能です。
なお、現在は、出願中の発明についても、仮通常実施権として予め実施許諾することが認められていますので、必要な技術については、権利発生前であっても仮通常実施権の許諾を求めることを検討することも重要です。
そして、当該特許発明又は登録商標を、実施又は使用する地域、期間、態様等を特定します。2.ライセンスの対価(実施料、使用料)
ライセンスの対価をどのように決定するかは、ライセンス契約の確信をなす要素であり、実務上も、交渉の中心をなす事項であるといえます。実施料や使用料等を、自社に如何に有利に取り決めるかが極めて重要になります。
実施料・使用料の種類としては、
①イニシャルペイメント
②ランニングロイヤリティ
③ミニマムロイヤリティ
があります。
「イニシャルペイメント」は、頭金であり、契約締結までのコストはここで回収します。
「ランニングロイヤリティ」は、売上や数量に応じて、契約期間中、継続して支払うものであり、対象製品を明確にしておく必要があります。売上に応じて支払う場合は、売上高に対して実施料率を設定し、それらを掛け合わせた値をロイヤリティとするのが一般的です。
「ミニマムロイヤリティ」は、売上等に関係なく最低限支払うランニングロイヤリティです。ランニングロイヤリティの収益はライセンシーの販売能力によることろが大きいので、「独占的通常実施権」を許諾するライセンス契約では考慮しておく必要があります。また、ライセンシーが実施しないときは契約を解除できるようにしておくことも検討する必要があります。書籍電子化 自炊代行業 禁止命じる 東京地裁 作家の複製権侵害
2013.10.04 13:33
書籍をスキャナーで読み取って電子化する「自炊」の代行業は著作権法に違反するとして、作家の浅田次郎さん(61)や漫画家の弘兼憲史さん(66)ら7人が東京都内の2業者を相手取った訴訟で、東京地裁は30日、2業者に事業の禁止と計140万円の損害賠償の支払いを命じる判決を言い渡した。大須賀滋裁判長は、業者による書籍の電子化は、著作権に含まれる、著作者の「複製権」を侵害するとの初判断を示した。
被告側は「顧客の指示で手伝っただけで、複製の主体は顧客だ」と主張したが、判決は、裁断やスキャンという主要な電子化作業を被告が担っていることから、「複製の主体は業者」と判断。被告が原告らの書籍の電子化は受け付けないとしていたのに、実際は注文に応じていたことも認定し、「今後も侵害の恐れがある」として事業禁止を命じた。
読売新聞 2013年10月1日 朝刊
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(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となっている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合
二 省略
三 省略
2 省略
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しかしながら、自炊業者は、利用者の手足として複製していると考えることができるので、書籍の保有者が複製作業に関与しているか否かによって、その判断を行うことには疑問が残る。この点について、本判決は、「このような電子ファイル化における作業の具体的内容をみるならば,抽象的には利用者が因果の流れを支配しているようにみえるとしても,有形的再製の中核をなす電子ファイル化の作業は法人被告らの管理下にあるとみられるのであって,複製における枢要な行為を法人被告らが行っているとみるのが相当である。」と認定しているが、どうもすんなりと納得することはできない。
弁理士 西村陽一
知的財産契約(2)
2013.10.02 10:00
今回は、知的財産契約の中で最も重要度の高いライセンス契約について説明します。
契約の主たる法律関係は、以下の3つです。
1.誰と誰が合意したのか
2.何についての合意したのか
3.どういう債権債務を負うか
従って、契約書においては、まず、「当事者」、「契約対象」及び「債権債務の内容」を特定する必要があります。知的財産に関するライセンス契約とは、特許権者や商標権者が当該特許発明の実施や当該登録商標の使用を他人に認める実施権を設定する契約であり、ライセンサー(特許権者や商標権者等)は、ライセンシー(他人)による特許発明の実施や登録商標の使用に対して法的措置をとらないという義務を、ライセンシーはこれに対して対価の支払い義務をそれぞれ負うことになります。
実施権としては、設定の範囲内で特許発明(登録商標)等を独占的に実施(使用)できる専用実施権(専用使用権)と、設定の範囲内で特許発明(登録商標)等を単に実施(使用)できる通常実施権(通常使用権)とがあり、特許権者や商標権者は、同一の発明(商標)について複数の専用実施権(専用使用権)を異なる他人に重複して設定することはできませんが、同一の発明(商標)について複数の通常実施権(通常使用権)を異なる他人に重複して設定することができます。
前回説明しました知的財産権の特性を考慮しますと、知的財産に関するライセンス契約のポイントは以下のようになります。
1.ライセンス契約の対象を明確にする(権利内容の不明確性)
2.ライセンスの対価はどのようにして定めるのか(経済的価値の不確実性)
3.知的財産権が侵害され、利用に障害が生じた場合にどうするのか
(権利侵害の容易性)
4.技術的効果が認められない場合や権利に瑕疵がある場合にどうするのか
(権利の脆弱性)
5.独占禁止法に規定している不公正な取引方法に該当しないようにする
(権利の事業支配力性)次回から各ポイントについて、細かく説明していきます。